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↓以下が元になった文です。誤字を修正、最後一行を加えてます↓

 


 

月は定期的に地球に近づき、その姿を一際大きく明るく見せる時がある。

そのことは知っていたが、それが今日だったとは晃牙は覚えていなかったので、目が覚めて窓からさしこむ明るさに驚いた。

辺りはすっかり暗く、下校時間をとっくに過ぎていた。

 

「やっと起きたかの、ワンコ。」

 

机に突っ伏して寝ていた晃牙が身体を起こすと、柔らかい声が聞こえた。

窓際に椅子を起き、のんびりと月見をしている零がいた。

 

「見てみぃ、ワンコ。今宵は月が綺麗じゃよ。」

 

云われる前に、その大きく輝く存在に晃牙は目を奪われていた。

見上げるとちょうど視界に入るそれは、四角い窓に縁取られて、まるで1つの絵画のようだった。

 

「すげぇ、なんでこんな明るいんだ。」

「昨日が十五夜で、今日は月が一番地球に近い日じゃそうだ。」

「ふーん」

 

曖昧な返事をしながら、晃牙は窓のそばによるとぺたりと冷えたガラスに手をついた。

零は晃牙の目が熱心に月に向けられているのをみて、やはりなと一人で納得した。

自分では気がついていないが、晃牙は月と相性が良いというか、好きらしい。今日のように満月の時などは特に機嫌が良さそうにしている。

月が出ているということは随分な時間になってしまっているのだが、一人と一匹で暮らしている晃牙には、遅くなろうが何をしようが、彼を家に呼び戻す声はかからない。

 

「…月をお気に召したようじゃが、ゆっくりしていていいのかのぅ。」

「…あっ!レオン!今何時だ?!」

 

パッと晃牙が窓から離れて慌ただしく荷物をかき集め始める。

放っておけばさっさと帰ってしまうだろう。

ほんの少し、寂しかった。

 

「のう、ワンコや…我輩そのレオンとやらに会ってみたいのじゃが。」

「…何企んでんだよ。」

「なにも?」

 

ただ、少し寂しいだけ。

年下の後輩にそう伝える勇気はまだ無かった。



 

(寂しい、とはまだ云えない)

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