鋼錬、あんスタ、ぬら孫のBL二次創作サイトです
きしきしと足の下で床がきしむ。
時々僕の胸もこんな風になる。
雨が降ったり、空気が冷たくなると、特に。
(―――べつに、熱とかがでるわけじゃない、し。)
仲間は心配そうにするけど、僕はそんなに気にしていない。
がさがさと自分の机の上に散らばった紙を押しのけてから、
僕は探し物がそこにないことを確認すると早足に隣の部屋に向かった。
「エドワードさん、昨日の設計図…」
貸してください、と続ける筈だった言葉は宙ぶらりんになって主のいない部屋に浮いた。
いつ出かけたんだろう、全く気がつかなかった。
留守の間に人の部屋に手をつけるのは、とても気がひける。
でも、もしこの辺にあの設計図を置いていたらもらっていきたい。
崩さないよう気を付けて、片手で机の上の紙の山を支えながらそうと探してみる。
ちょっと気を抜くとざらざらと崩れていきそうだ。
人の事は云えた義理じゃないけど、エドワードさんはあんなに綺麗な顔をしているのに机の上はとても汚い。
ついでに口も汚い。
「あ…っ」
余計な事を考えていたからか、手の下の紙が滑って机から落ちそうになった。
ずるりと重そうな音をさせてずれるそれを慌てて両手で支える。
それでも間に合わなくってバラバラと何枚も紙が床に落ちてしまった。
「あぁああ…すみません…」
つい、不在なのに彼への謝罪の言葉が口をついてでる。
急いで屈んで一枚一枚拾い上げる。
片づけるつもりで拾い集めた紙。
混ざっていた一枚の手紙。
宛名はAlphonse、と綴られていた。
一瞬自分かと思ったけれど、
英語の単語をみて、僕宛じゃないことがわかった。
(―――だって僕にならドイツ語で書く)
僕宛じゃないのなら、読むべきじゃない。
他の紙としまおうと思ったけど、ちらりと目に入った単語につられて一行読んでしまう。
『こんな手紙、出すつもりはないけど』
「……。」
その次の行も。
次の行も。
「……っ、」
ついに僕は紙の一番上から文字を追った。
『アルフォンスへ。』
『お前が無事に元に戻れたのか、それだけが心配だ。』
黒いインクで刻まれた文字を、眼で辿る。
『失敗していないといい。これ以上お前に何も背負わせたくない。』
最初は兄らしい口調で、遠いところに居る彼への問いかけと、自分の日々を簡単に語る言葉。
紙の真ん中から、言葉に少し弱気がにじむ。
彼は、エドワードさんは、弟に恨まれていないか、不幸にしていないか、心配しているようだった。
数行、無理に明るく浮上してから、紙の最後の方で彼の本心が読み取れた。
誰にも見せるつもりはなかったのだろう手紙にくっきりと表れた心。
途中から字が乱れて、筆圧も強く、紙を削るように書いてあった。
咳が出る時と、全然違うふうに、胸が痛んだ。
眼に涙が滲んできて、僕はきつく眼を閉じた。
どうか
どうか
お願いだから、
バタン、とドアが閉じる音と、靴音。
片方の足を引きずる歩き方。
僕は息を吸い込むとゆっくりと吐き出した。
「たっだいまぁー…あれ?アルフォンス?」
「おかえりなさい」
キッチンにいる彼に届くように少し声を張り上げる。
顔を擦ると手にしていた紙の束を机の上に戻した。
(―――大丈夫、いつも通りに、)
「俺の部屋で何してんの?」
「待ってたんですよ、エドワードさん。あなた机の上散らかし過ぎですよ?」
どこに行ってたんですか?と腰に手を当てていうと、彼は忘れものを取りに、と答えた。
「部屋にこもってたから声かけなかったんだよ。…大丈夫か、お前。なんかあったか?」
なんでもありません、と慌てて首をふると、僕はエドワードさんの腕をとった。
「お腹空きません?なんか食べに行きませんか。」
「へ?でも、なんか用があったんじゃ、」
「いいんですいいんです。大したことじゃありませんから。」
怪訝な顔をする彼を部屋から押し出して扉を閉めた。
「変なやつだな…ホントに大丈夫か?」
「はいっ。」
「ならいいけどよ…」
「それで?何処いきます?」
上着を着込んでそう云うと、ようやくエドワードさんの興味が食べ物のほうへ移った。
「そうだなぁ…久々にガストンのとこ行くか。」
「いいですよ。」
「白ソーセージ、あるかな?」
「どうでしょうね。」
「あっ、その前にちょっと買い物したい!インク瓶割っちまったんだ。」
「またですかぁ?もーエドワードさんは…」
違うってーと始まった彼の言い訳を聞きながら外へでる。
あからさまかもしれないけど、今自分に出来る限りのことを彼にしてあげたかった。
どうか どうか
お願いだから、
誰か、彼の傍にいて。
僕じゃだめなら、
同じ名前を持つ僕だからこそ、だめなら、
別の人でいいから、傍にいて。
遠い遠い場所に居るなら、逢いに来て。
道が見つからないなら、僕が道を作るから。
遠い遠い場所にいる人に、届かない手紙。
どうすれば届けてあげれるのだろう。
わからないから、想いだけでも届けばいいのにと、僕は祈った。
とおい祈り