鋼錬、あんスタ、ぬら孫のBL二次創作サイトです
ざく、ざくざく
白と灰色の世界の中。
一人分の息遣い。
二人分の足跡。
「あー…くそ。」
一人分の悪態と、
「さむい。冷たい。何より進まん。」
「もう…さっきからソレばっかり。」
それに続く一人分の嗜め。
「だってよー。みろよ、もうコレありえない。」
振り向いた少年は、黒いズボンを膝上まですっぽりと白い雪に食われていた。
身に着けている赤いコートの裾は、ずるずると雪の上を這っている。
「うーん…確かに進みにくいね…陽が暮れるまでに着くかな?」
ほつれた金色の三つ編みを眺めながら、後ろに居た大きな鎧は頭を傾げる。
兜の中で光る眼は真っ白な空へ向けられている。
「この様子じゃあ暮れてるのか暮れてないのかわかんないね。」
ぐす、っと前を歩いていたエドワードが鼻を啜りながらまた一歩踏み出す。
「暮れたとしてもこんなとこで野宿できるか。進むしかねーだろ。」
ざくり、ざくり。
真新しい積もりたての雪に穴を開けていく二人。
見渡す限り家や建物が見当たらない。
真っ白な雪と、木があるだけ。
ひたすら歩き続けて、
とうとう白と灰色の世界は、白と黒の世界へとうつり始めた。
疲れて言葉も出ないのか、悪態の止んだ兄の後ろで、
寒さで縮こまって丸まった背中を見つめながら、弟はしばし考えた。
「あーもう進まねぇ…!!」
そして、とうとう兄がキレだした頃、
「兄さん。」
と短く呼びかけた。
「あ?どした。」
若干不機嫌が残る声には答えず、アルフォンスは持っていたトランクを片手で支えながら、
パチンと留め金を弾いて蓋を開けた。
「アル?」
「底のほうに、防水布が入ってるからとってくれる?」
「?」
云われるままにエドワードはトランクの中に手を突っ込んで、野宿用にいれてある茶色の布を引っ張り出す。
兄が布を手に取ったのをみると、アルフォンスはトランクを閉めて、布を受け取る。
「じゃあちょっとコレ、持ってて。」
「?」
今度は差し出されたトランクを受け取るエドワード。
頭上にハテナマークが増えていく。
「アル?一体何が、」
「怒らないでね、兄さん?」
「はぁ?怒るも何も一体…うわ!?」
がくん、と視界が揺れて、エドワードは素っ頓狂な声をあげた。
裏返った声が雪と木々を打って反響する。
アルフォンスに身体を掬い上げられたのだとわかって、エドワードは機械鎧の腕を振り上げた。
「何しやがる!」
怒声のすぐ後に、ガコン、と機械鎧がアルフォンスを打つ音。
トランクを抱えたまま兄が暴れるので、アルフォンスはよたよたと数歩よろめいた。
「あぁ、動かないで、」
「動かないでじゃねぇ!やるならやるって云いやがれ!」
「だって兄さん絶対嫌がると思って、」
「当たり前だ!」
「だってこのままだと兄さん雪に埋まっちゃうよ」
「だれが雪に埋もれて見えないほどのミジンコドチビかぁあ!!」
「そこまでいってないでしょ!?」
ぎゃあぎゃあ喚きながら、エドワードは自分と弟の間に挟まった茶色の布に眼をやった。
アルフォンスの目的がわかっていれば手を貸さなかったのに、とふてくされる。
「…さっき布を出したのはこのためかよ。」
「え、あぁ…。」
ようやく歩き出しながら、アルフォンスはエドワードの言葉に頷く。
「うん。だって今の僕の身体濡れてるだろうし。それにすごく冷たいと思うから。」
「…ばかやろう。」
バン、とエドワードの左手がアルフォンスの身体を叩いた。
「これなら夜までに着かなくっても、なんとかなるよ。」
僕なら疲れることはないし、雪に足を取られることもない。
言葉の裏側を読み取って、エドワードは不機嫌な声で返した。
「ばーか。お前俺にここまでさせといて夜までにつかないってどういうことだ?」
「兄さんの労力あるのかなぁこれ…」
「絶対着け。なんとしてでも着け。」
「走っても?」
「それはダメ。」
「えー」
「俺抱えたまんま全力疾走したら危ないだろうが!」
ざくざくざく。
白い風景に黒い影がかかる世界で、
一人分の足跡、
二人分の声。
日暮れまで、あと一時間。
白と黒の世界で