鋼錬、あんスタ、ぬら孫のBL二次創作サイトです
10月に入ったというのに、ここのところずいぶん気温が高い。
台風が発生したと聞いた気がするのに、そんな様子はチラリとも見せずに太陽は元気に輝いている。
気まぐれにふくひんやりとした風だけが唯一、秋らしく感じられた。
珍しく日が高いうちに目が覚め、気が向いたので庭園に来てみたものの、強い日差しにじりじりと炙られて零はげんなりと立ち尽くしていた。
もう何もやる気がおきない。
心なしか貧血を起こしている気までする。
「…我輩死ぬかもしれん。」
「それは、困るな。」
「おぅ…!」
独り言に戸惑いがちな返事をされて零は飛び上がった。
声がした方を見て、思わず安堵の声を漏らす。
「アドニスくんじゃったか。」
零の言葉に紫の髪の青年はこくりと頷く。
「驚かしてすまない。」
低い声で無表情に云う様子は、彼をよく知らない人物からすれば無愛想に見えるかもしれないが、零にとっては頼もしい限りだった。
アドニスは謝罪だけすると、零の腕を取り日陰にあるベンチまで連れて行く。
言葉はなかったが彼の歩みは遅く、掴んでくる手から十分に気遣いが感じられる。
丁重に零をベンチに座らせると、何かいるものはあるか尋ねてくる。
「ありがとう。強いて言えば、しばらくここで付き添ってくれると心強いんじゃが…」
「ではそうしよう。」
アドニスはぐったりとしている零の隣に腰掛ける。
「あぁ…助かったよ。あのまま倒れておったかもしれん。」
「朔間先輩…随分辛そうだが、喋っても大丈夫なのか。」
「うむ…気を紛らわしたいんじゃ。この際運が悪かったと思って付き合っておくれ。」
零はぐるりと視界が回りだしてしばし口を噤むと前のめりに項垂れた。
その様子を見たアドニスは、ポケットからハンカチをだして零に差し出す。
「汚れても構わないから、好きにつかうといい。」
冷えた手にそれを押しつけると、零の返事を待たずに汗ばんだ首元に両手を差し入れる。
ネクタイの結び目を軽く緩めると、シャツのボタンをもう一つはずしてやる。
零の目線に気がつくと、アドニスは恥ずかしそうに眼を伏せながら手をひっこめた。
「その、苦しそうにしていたので…出すぎたことをしただろうか。」
「いや…ありがとう、アドニスくん。」
しばらくの間、零は項垂れ、アドニスはそれを見守っていた。
「うぅむ…目が回る…」
「朔間先輩は、こんなに光に弱かっただろうか。前は、もう少し歩きまわっていたようだが。」
「それが、ここのところサボっていたことがあってのう…思っていたよりも影響がでてしまったようじゃ…」
脳が揺れるような感覚が徐々に収まってきて、零は恐る恐る身体を起こした。
気持ち悪さがぶり返さないのを確認してから、ベンチの背もたれに身体を預けて息を吐き出す。
「…太陽の光は、一定量浴びると食事を取らなくてもいいくらいにエネルギーを蓄積できるらしい。」
「ふぅむ…なかなかに酔狂な考えじゃな。」
「姉たちがいっていた。新しいダイエットなのだと。」
「はは、おなごたちの関心はいつの時代も変わらないのう…」
「俺は、人は食事をしっかり摂らないとだめだと思う。」
「アドニス君らしいのう。」
「朔間先輩は、食べ物ではなく血を摂取すれば元気になるのか?」
「そうじゃな…我輩は吸血鬼じゃからのう。」
「良かったら俺の血を渡そうか。」
唐突に差し出された腕に零は眼をむいた。
褐色肌の少年は、ほんの少しだけ唇の端を持ち上げて眼を細めた。
「…冗談だ。」
「なんとまぁ…竹の花を見た気分じゃ。」
「俺だって笑う時くらいはある…」
「そっちではない…驚きのあまり具合が悪かったのがすっ飛んでいったようじゃ。」
「そうか。では行こうか。」
アドニスが立ち上がったので、その場を離れるのかと思いきや、零は手を差し出されて困惑する。
「うん?」
「ガーデンテラスへ。何か食べるか、飲むかした方がいい。」
「あー…我輩もう光を浴びるのは嫌なのじゃが…」
「日陰を歩くようにしよう。」
「ああぁ…」
うだうだしている間に引っ張り起こされて、仕方なく零は脚を動かす。
面倒見が良く、責任感の強い後輩は道を慎重に選びながら零を引っ張っていく。
彼の使命は早急に零に栄養をつけさせることに絞られている。
断ったとしても、放っておいてはくれないだろう。
運が悪かったのは零の方だったのかもしれない。
「…しかしアドニスくんの冗談は面白くないぞい。要勉強じゃ。」
苦し紛れにぶつけた嫌味は、頼もしい背中に跳ねかえって落ちた。
竹の花
(非常に珍しい/凶事の前触れ)
お題:光のデマ 制限時間:15分 必須要素:なし