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お昼をすぎた頃から、空が青から白へ色を変えた。

今日はあまりあつくない。

いつもならまだまだ眩しいのに、空を真っ直ぐ見上げることができる。

芝生の上にいてもいいのだけど、なんだかじめじめするから、へいの上によじ登る。

本当は木の上に登りたいのだけど、まだ私は木登りが上手くない。

 

「リリィ、まだ外にいたの?」

 

後ろからアルに声をかけられてふりむく。

大きな茶色のカゴを両手でかかえるようにして持っている。中身はさっきまで干してあった洗濯物。

お天気のいい日はふかふかの洗濯物の中に飛び込んだりするのだけど、今日はできない。

きっとまだ生乾きだもの。

 

「もう少ししたら雨が降るよ?中に入ったら?」

 

大丈夫。

降り出す前には中に入るから。

短く返事をすると、アルはぬれない様にね、と云い残してからカゴをかかえ直して、家のほうへ戻っていった。

 

雨はあまりすきじゃない。

 

本当は、早く家の中に入りたい。

 

雨が地面をたたく音を聞くと、ぞわぞわする。

湿った空気の匂いをかぐと、からだの中が空っぽになって、ぎゅうぎゅうしぼられている気分になって、不安になる。

でもそれは別に特別なことじゃない。

雨が苦手なのは私だけじゃないもの。

少し前までうちにいたコも、雨の日は動きがにぶくなるとこぼしていた。

それに、

 

「リリィ、んなとこで何してんだよ。」

「!」

待ち望んでいた声に、顔を上げる。

真っ赤な上着を着たエドが目の前に立っていた。

「もうすぐ降るぞ。」

エドを待ってたの。

「雨嫌いなくせに。」

 

エドだってそうじゃない。

 

それなのに出かけるから、こうして待ってたんだよ。

 

「おら、ぎゃーぎゃー云ってないでとっとと中に入るぞ。」

 

ぎゃあぎゃあなんて鳴いてないっ。

私の声を無視して、エドは私を抱き上げると、家の扉に向かった。

どこか遠くのほうで、大きな猫がのどを鳴らしはじめる。

つられてのどを鳴らしそうになった。

 

「げ、雷までくんのかよ。」

 

かみなり?

 

…猫の名前かな。

 

「ただいまーっ。アル、雷鳴ってるぜ。」

「おかえり。降りだす前に戻ってこれてよかった。」

「おー。」

「痛む?」

「ヘーキヘーキ。」

「今おしぼり作るからね。」

「いいって、心配性だなー…」

「兄さんが無関心だからだろ。」

 

アルとエドにはさまれて狭くなってきたから、私はエドの腕の中から床に飛び降りた。

 

ニンゲンは会話するときぴったりとからだをくっつける。

耳が小さいからきっと聞き取りにくいのだと思う。

もしかしたらわたしたちみたいに毛が無いから寒いのかもしれない。

 

また巨大な猫がどこかで喉を鳴らしてる。

それにしても大きな音。


 

よっぽど幸せなのね、きっと。

 

​黒猫の独白

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