鋼錬、あんスタ、ぬら孫のBL二次創作サイトです
カラーン、カラーン、と真鍮の鐘が鳴る。
力強い音に紛れる、おめでとうございまぁーすという朗らかな声。
店先に置かれた、折りたたみ式の長テーブルには人だかりができていた。
「幸せって、ならないのかなぁ。」
少し暑くて少し寒い季節。
まだ吐く息は白くならないし、コートもマフラーもまだいらないけれど、そろそろ毛布が恋しくなってくる時期。
福引を眺めながらぽつりと零れた呟きは、隣を歩いていたエドワードに拾い上げられた。
「ここはアレか?幸せはー歩いてこないーだーから歩いていくんだねー、とか返すべきなのか?」
「違う違う。」
古い歌をなぞる兄に、アルフォンスは苦笑して首を横に振った。
「っていうか…聞こえてるとは思わなかった。」
「俺の耳は出来がいいからな。」
「あぁ、出来がいいから閉じたり開いたりするんですかねぇ。」
集中している時のエドワードは何度も何度も呼ばないと気がつかない。
本の世界に取り込まれでもしているかのようで、毎回アルフォンスは彼をこちらの世界に引き戻すのに苦労している。
「読書中のことはいってくれるな。」
ひんやりとした風が吹くなか、兄弟はてくてくと歩きながらテンポよく掛け合いをする。
「それで?幸せがなんだって?」
「あぁ・・・うん。幸せっていうのがあるとするでしょ?」
「物として?」
「どちらかといえば状況?」
「ほう。」
「それで、大体の場合はその幸せに気づくんだけど、毎回気づいてるわけじゃないとして。」
「ふん。」
「ないがしろにしたいわけじゃないのに、気付かなかったとして。」
「ようするに欲張りの話だな。」
「…そうなりますか。」
仕方がないだろう、とエドワードは胸を張った。
「悪気があるわけじゃないならいいじゃねーか。」
「お兄様それは開き直りというものではないでしょうか…」
「違うね。お前が欲張りなんだろ。」
「そうかなぁ…」
せっかく今『幸せ』なのにそれに気付けなかったら、たとえそれが大きな幸せでも小さな幸せでも意味がないし、失礼な気がするよ。とアルフォンスは口の中でつぶやいた。
「だから、ああやって音が鳴ってくれたらいいのになと思って。」
風で冷やされた指先が、後ろの方で鳴っている鐘をさす。
リンゴーン、リンゴーン。
おめでとうございます、おめでとうございます!
たった今、2等の幸せが当たりました!
「…それは…うるさくないか?」
律儀に想像してみたエドワードはげんなりと感想を述べた。
「でも便利だよ?」
「いや、便利って…」
どうしたものかなぁ、と兄は妙な感覚をもつ弟に頭を悩ませた。
そもそも大きなものから、偶然の産物、ささやかなものまでひとつ残らずラベルを貼りたいというのもいかがなものか。
しかもそこから派生した考えが『幸せの音』とは突飛過ぎて、いくら肉親といえども流石についていけない。
「音…音ねぇ…知らないこともないけどな。」
ぽつりとこぼしたエドワードに、まさか本当にそんなものがあるとは思っていなかったアルフォンスが眼を落とさんばかりに見開く。
「うそ!え、なにそれ。」
思わぬ食いつきに、エドワードは、しまった、というような顔をする。
それでもしばし考えると、ちろりと弟へ眼をやった。
「…知りたいか?」
「知りたい。」
「いっとくけど、お前が思ってるようなもんじゃねーぞ。」
「いいよ。」
「………しょーがねーな。」
是非と頷く弟を手招くと、エドワードは身を寄せてきた彼の胸を、とんとん、と指先で叩いた。
「…? 兄さん?」
「これ。」
服の上にぺたりと掌を置く。
真ん中から少し外れた位置に、存在を主張する塊。
布一枚と筋肉を通して伝わる鼓動に、エドワードは口の端を持ち上げる。
「…な?これが俺の、シアワセの音だ。」
「…っ、」
(―――う、わ……!)
声にならない驚き。
顔がカッと熱くなる。
特別出血大サービスだ、と身を翻した兄の背中を追うこともできず、
「…ひどいよ、兄さん。」
目許を赤くしながら、アルフォンスはまた口の中でぼやいた。
お前の心臓が動いている限り、俺は幸せなんだと云われた気がして。
(―――そんなの反則だよ。)
どうすればいいのかわからず、その場にとどまっていると、前を歩いていたエドワードがくるりと振り向いた。
(―――あ、)
「どーだ、わかったかっ!」
云い放ってから、パンチをするフリ。
そんな彼の耳は、寒くもないのに赤くなっていて、
戯れに始めた会話から完全ノックアウトを叩き込まれたアルフォンスは両手をあげて降参の声をあげた。
幸福の音