top of page

 

「エド、ちょっといいか。」

まさに今弟と退室しかけていたエドワード・エルリック少佐は背中に当たった声に振り向いた。

一方、兄を呼びとめられたアルフォンス・エルリック少尉はひそかに溜息をついた。

 

「兄さん、そっちの書類全部貸して。」

「へ?」

 

「ほら、それも。急ぎで提出するのはこれと、これ?」

「お、おぉ…。」

「はい、それでは私はこれで失礼いたしますね、少佐、准将。」

 

金髪金眼の少佐はきょとんとし、

黒髪黒眼の准将は会釈をして扉を開けるアルフォンスに苦笑した。

 

「随分過保護じゃないか。」

「時間がかかりそうでしたので。」

 

身体を半分だけ室内に踏み込ませたまま、アルフォンスはさらりと続けた。

 

「准将が兄を名前で呼ぶ時は私用の時だけでしょう?」

 

失礼します、と扉が閉まるのと同時に、ロイが咳払いをした。

 

「…バレてんじゃねーか。」

「まぁ…君の弟だしな。」

「なんだソレ。」

 

扉の傍でエドワードが腰に手を当てていると、背後から男の気配が近づいてきた。

 

「…それで?何の用だよ。」

「ずいぶん髪が伸びたな。」

 

するりとうなじを掠めて、男の指が髪を梳いていく。

噛み合っていない会話にイラつくことも、接触を拒むこともなく、エドワードは力を抜いて男の好きにさせた。

ぷつりと首元のボタンがはじかれて、乾いたくちびるが押し当てられる。

「…用件は?」

「今している。」

「へぇ。」

くすくすとエドワードが笑うのを止めようとするかのように、ロイは目前の首に柔らかく噛みついた。

動く度に金色が顔をくすぐる。

室内におかれている黒いソファーにエドワードを押しつけると、初めて彼は抵抗を見せた。

 

「おい、本当にすんのかよ。」

「もちろん。」

「じゃあその為に呼び止めたっつーのかよ。」

「まぁ…実はそうじゃないんだが…」

「が?」

「弟君にもお許しをもらったわけだしな。」

「はぁ…肝心の俺の意見は聞かねーのかよ。」

「じゃあ聞こうか?」

「聞くな。」

「なんなんだ…」

 

戯れに交わす会話の合間に、何度も唇が重なって、組み敷かれたエドワードのボタンが外されていく。

ふと身体を離したロイの眼に、つやつやとした黒いソファーに散らばった金糸が映った。

ほとんどがエドワードの身体の下に敷かれてしまっているが、一部はソファーを伝い、床に落ちていた。

 

「本当に…長くなったな。」

「ダレと比べてるわけ?」

「昔のお前。」

 

ごそごそと上着の中に侵入してくる手をはたきながら、エドワードは肩をすくめた。

 

「髪、下ろしてるからそう感じるだけだろ。」

「そういえば最近くくらなくなったな。」

「本当はおろしてる方が好きなんだよ。邪魔にならなければ。」

 

ふと、ロイの脳裏にかつてのエドワードの姿がちらついた。

 

もう三つ編みはしないのか、と尋ねる男に、かつて最年少と謳われた国家錬金術師は笑って囁いた。

 

「お前がエビフライを食べたがって面倒だからヤだ。」

​右に隠し下手、左に達観者

bottom of page