鋼錬、あんスタ、ぬら孫のBL二次創作サイトです
たっぷりのバターとたまご。
小麦粉、さとう、膨らし粉。
ふっくらと焼きあがった土台を冷ましたら、冷たくて真っ白なクリームで包む。
ビスケットとマシュマロとアメの家。
カラフルなラッピングフィルムに包まれたチョコレートはプレゼントの代わり。
マジパンの赤い服を着た小人。
スノーボールの雪だるま。
アイシングで飾られたツリーの形のウエハース。
最後に雪を降らせたら出来上がり。
「…おい。そこのケーキ職人。」
「わっ!」
黙々と作業していたアルフォンスは背中に投げられた声に飛び上った。
手元が狂って振りかけていたパウダーシュガーがテーブルの上に白く飛び散る。
「び…びっくりしたぁ…兄さんいつ帰ってきたの?」
「ちょい前。まっすぐ部屋にあがってちょっと調べものしてた。」
エドワードは手にもった本をひらひらと振ってみせる。
「あぁ…それでこっちにこなかったんだね。」
アルフォンスに見せた本を脇に挟み、エドワードは自分のカップを棚から出すと、保温ポットを傾けた。
飲むのに丁度いい温度の紅茶を啜りながらまたテーブルに戻り音をたてて椅子を引く。
「で?なんでお前こんなん作ってるわけ?」
ちょん、と白い指がマジパンの小人を突く。
赤い服を着たまんまるい顔の小人は、抗うすべもなくころりと固いテーブルに転がった。
「え…いや、ちょっと…気分転換?」
「ふぅん…随分と凝った気分転換ですなぁ。時間かかったんじゃねぇの?」
ちろりと金色の眼がシンクの中に重なったボールや、テーブルの上に散らばった道具のあたりを彷徨う。
パウダーシュガーを降らしながら、アルフォンスは微妙な笑いを浮かべる。
「あー…はは…」
「別にいいけどよ。良くできてるな。」
大きな皿の上に乗っているのは、たまにアルフォンスが作るようなケーキと同じような大きさのもの。
おそらく生地はいつもと同じだろう。
いつもと違うのは、そのスポンジがいちごやリンゴやバナナでなく、お菓子でできた家や雪だるまで飾られているところ。
流石手先が器用なアルフォンスが作ったものだけあって、うまく出来ている。
褒められてうれしいアルフォンスはパッと顔を明るくする。
「ありがとう。」
「この煙突から出てんの、なに?」
「綿菓子。」
「へぇ…ホント良くできてるな。」
「えへへ…」
「頭の中にしっかりとイメージできてる感じだ。」
「うんっ、夢でね―――あっ。」
パッ、とアルフォンスが口を押さえたが遅かった。
頬づえをついてこちらをみてくる意地悪い笑みを浮かべている金色と眼が合う。
「ふぅん?」
「う…」
「夢ね。なるほどね。」
「うー…悔しい…」
「さぁさぁ白状しな?一体どんなメルヘンな夢をみたのかなぁ?」
「あーもうっ!そうやってからかうだろうから黙ってたのにっ!」
「引っかかるほうが悪い。」
さぁ云え、早く云え、とせかされて、アルフォンスはしぶしぶ口を開く。
「実をいうとあんまり内容は覚えてないんだけど…僕はその夢に登場してなくて、空気みたいに目線がうろうろしてて、人をみてて、」
「うん。」
「なんかね、大げさな話じゃなくてさ、町みたいなところなんだけど、みんなすっごく楽しそうにしてるんだ。」
頂に星を乗せたモミの木。
幸せを呼ぶ小人や平和を示す鳩の飾り。
町はきらきらぴかぴかしていて、
真冬で寒いのにみんな笑顔で歌を歌っている。
ねずみもねこもいぬも今日だけはケンカなし。
だって今日は特別な日だから!
「…絵本?」
「あー、うんうん。そんな感じ。絵本の世界みたいな感じだった。」
楽しくて、寒いのに暖かくて。
眼を覚ましてもしばらく胸に暖かさが残っていた。
「誕生日みたいにプレゼントを交換したり、ケーキを食べたり集まって遊んだりしてた。」
「へー…それでコレ?」
コレ、とエドワードが眼の前のケーキを指す。
後ろめたそうにアルフォンスが頷く。
「うん…なんか…すごくいい夢だったから…形にしてみたくて。イメージで作ってみたんだ。」
確かにアルフォンスが作ったスポンジの上の小さな世界はきらきらぴかぴかしていて、楽しそうだ。
(こてこてしていて、食べるのには苦労しそうだけど。)
しかし作った本人は俯いて全く楽しくなさそうな顔をしている。
エドワードは短く息を吐くと、肩をすくめた。
「いいんじゃね?」
ゆっくりとアルフォンスが兄の顔をみる。
そこには先程の意地悪い笑みは浮かんでいない。
「…あ、りがとう…。」
「つーか別に隠さなくってもいいじゃねーか。」
「だって絶対バカにされると思って…。」
「まぁそうだわな…けど、形に残したいっつーのはわからないでもないしなぁ?」
「ふふ、ありがとう。後で一緒に食べてくれる?」
「おう。今日土産に酒買ってきたからあけるか。」
「わぁ、本当に特別な日みたいだね。」
「形になったじゃん?」
その後、到底この大作を食べきれないと判断した二人は幼馴染と近所の子供を招いて、皆でケーキを食べることにした。
小さくて幸せな世界