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ガチャリと扉を開けた先。

戯れに頼んだ通り、彼は部屋のすぐ外で待っていた。

「よう。」

片手をあげて挨拶をするエドワードに、

窓の傍で待っていたアルフォンスは少しだけ表情を和らげて会釈した。

 

ぱんっ、と高い位置に一つにまとめている髪を払うとエドワードは廊下をまっすぐに進んだ。

その後に軍服姿の弟が続く。

 

「お疲れさまでした。」

「おーさんきゅ。今回も多分大丈夫だろ。」

「毎回貴方が瀬戸際に発揮する能力には眼を見張ります。」

「やっつけじゃねーっつの。実力だ実力っ。」

「瀬戸際にしか発揮できない実力、ということで?」

「嫌味…」

「ありがとうございます。」
 

褒めてない褒めてない。一ミリも褒めてない!
 

エドワードは敬語になるとこれでもかと嫌味になる弟をうんざりと見上げる。

濃紺の軍服に身を包んだ長身の弟は、兄の胡乱気な目線を気にも留めず片手に兄のコートと荷物を提げて歩いて行く。

廊下を行く間、何度かアルフォンスは業務連絡などで足を止める。

エドワードの方は中央に帰ってきたばかりなので軽い挨拶程度しか声はかからない。

弟が二言三言相手と言葉を交わす間、兄は彼にに寄せられる目線を数えてみた。

「そりゃまぁ…モテるわなぁ…。」

顔いいし、仕事熱心だし?

優しいし。

嫌味だけどな。性格悪いしな。

アルフォンスが同僚と話している間にぼんやりとそんなことを考える国家錬金術師は、自分自身にも寄せられる好意の目線の多さに気がつかない。

 

「お待たせいたしました。」

ようやく話を終えたアルフォンスは、少し離れたところで待っていた兄の許へと素早く戻る。

「こちらへ。」

アルフォンスに誘導されるエドワードは、背後で弟の冷たい目線が数人に突き刺さるのを見逃す。

「…つかさぁ…お前って律儀だよなぁ…」

「…何か?」

「だってよぉ…冗談だったのにマジで迎えにくるし。」

そっちに帰るからと話していたのはつい先日のことだ。

じゃあ迎えにあがりましょうかという提案に冗談のつもりで応じると本当にアルフォンスは迎えに来てしまったのだ。

ほんの少し困ったような顔で見上げられて、アルフォンスは初めてにっこりと笑ってみせる。

「僕が貴方の命令を違えることがありましたか?」

「命令じゃなかったろ…」

うすら寒いのか熱いのか微妙にわからなくなってきたエドワードは顔をふいっと背けてしまう。

弟との会話に忙しい彼は、徐々に人通りが少ない方へと導かれているのに気がつかない。

「お前だって忙しいだろうがっ。別に無理に来なくったっていいんだぜっ。」

「無理なんかしてませんよ。今日は暇なんです。」

「嘘つけ。今日を暇にする為に前後に予定詰めただろーがっ。」

「こなせれば問題ありません。」

「あのなぁ…」

テコでも意見を変えない弟に手を焼いている兄は、自分が全く人気のないところに立っているのに気がつかない。

「そんなことしてて身体壊しても知らないからなっ。」

「…あのねぇ、兄さん?」

「お? ―――ッ!」

グッ、と腕を掴まれたかと思うとすぐ傍の部屋に引き込まれる。

あっという間のことで抵抗すらできなかった彼は、暗い部屋で弟に強く抱きしめられていることに気がつくのに時間がかかった。

「…あっ…!?」

微かに身じろぎすると腰に回っていない方の手が顎を掬いあげてきた。

暗い部屋の何処かから漏れている光を拾って、瞬く金色の眼が二つ。

「貴方を一人で帰らせる方が心配なんだけど?」

子供扱いするな、と怒鳴るには成長しすぎていて。

言葉の裏に含められた意味に気づいてしまったエドワードは困った顔で額を眼の前の軍服に押しつけた。

「んだよソレ…」

「兄さん真っ赤だ。」

「っるせ、」

「ねぇ、」

「あ?」

「おかえり。」

 

逢いたかった、という囁きと共に再び強く抱きしめられて、エドワードはくらくらと眩暈がするようだった。

膝が折れて弟の腕から擦り抜けてしまわないように両手でしがみつくと「可愛い」と、ぞくぞくするような声で云われて、口接けられた。

これでは逆効果もいいところだ。

体温の高い舌に搦め捕られ、離れたかと思うと耳や首にかじりつかれて、エドワードはとうとう音をあげた。

脚が崩れると、それを待っていたかの様にアルフォンスが背後の机に押し付けてくる。

固い木の面に背中が当たり、エドワードはぎくりとしたが、もう少しだけ弟の体温を味わっていたいとも思った。

ほんの少しだけ、招くようなしぐさをすると、がぶりと首を噛まれた。

「つっ!」

「欲しいの?」

「ばっ…誰が…!」

「そう?僕は欲しいよ。」

「~ッ…!!」

ざわりとうなじから髪をかき上げられ、肌に口接けされてトマトのように赤面していた錬金術師はようやく我に返った。

「まっ…待て待て待てっ!!」

「やだ。」

 

バタバタと足をばたつかせると膝を捕まれて乗り上げている机に押し付けられる。

 

「待、…っうん、」

 

開いた口には噛み付かれ、

 

「うぅ、ん…ふ、」

 

舌は愛撫を受けて使い物にならない。

 

「アル、ちょっと待て、」

「無理。」

「ぅ、んッ!」

 

いつの間にかボタンを外されていたベストがするりと左肩を滑り落ちる。

やはりボタンを二つ外されたシャツはズボンから引っ張り出されて手を差し込む隙間が出来てる。

状況が状況でなかったら軽く心配するくらい、熱い掌が肌に押しあてられる。

いつもより早い段階でとろとろと意識が蕩かされていくのにエドワードは抗うことが出来ない。

 

しかし、流石にスラックスのジッパーが下ろされる音を聞いて頭の片隅に引っ掛かっていた理性が眼を覚ました。

咄嗟に右腕がアルフォンスの肩を強く押す。

 

「待てって…!!い、今?ここで?ゼンブ?マジで?」

「……だめ?」

 

(―――そんな急に可愛らしく首を傾げられても…!)

さっきまで自分を頭からバリバリ食べてしまいそうだった獣は尻尾を隠し、いま目の前にいるのはいつものアルフォンスだ。

ちょっと首を傾げて自分をの機嫌を伺うようにこちらをみている。

下着に手がかかってはいるがそれ以上は指一本動かさない、ようするに『待て』状態。

自分の返事しだいで流れが変わってしまうこの状況。

まださっきのように勢いに流されてしまった方がマシな気がしてくる。

「…兄さん…ダメ?」

「う…あー…うー…おー…」

「お願い。」

「…って…ココ資料室だぞ…」

「滅多に人通らないから。ね?」

「つったって…んッ!」

「お願い…兄さん。…ね?」

『ね?』と云いながらも待ち切れなかった指が緩急をつけてエドワードの性器を擦る。

たまらずに声をあげそうになって、両手で口を塞ぐ。

 

(―――あっ、しまっ…)

 

肩を押さえていたものがなくなったアルフォンスは身体をエドワードに押しつけるようにして動きを封じると、

器用にエドワードの服をずらすと露出した性器を捕まえた。

「んっ、く…ふ……の、やろ…!」

「怖いカオだね…」

ちっとも怖がっていなさそうな顔でそう云う弟。

兄はされるがままになっている自分が恥ずかしいのと、弟への怒りで再三、顔を真っ赤にした。

高いところに明かりとり用の小さな窓しかない、小さな部屋。

少し埃っぽい空気が揺れる。

小さく軋む音が続いたかと思うと、ひときわガタンッ、と音が跳ねてから息を飲む音。

 

静寂。

「…っは……ガタついてんなぁ…」

「だから、ココに入れてあるんじゃ…?」

「あぁ…なる…」

ほとんど声を出さず息だけの会話を交わしてから、ついでとばかりにしばし休憩をとる二人。

エドワードの方は相変わらず机に押しつけられ、なおかつ身を折られているので身を休めようにも休まらない状況ではあったが。

「…は…あつ…」

「うん…暑いね。」

「フロ…入りたい…」

「あとでね。」

「あっちこっち痛い…」

「えっ、もう?」

驚いたアルフォンスの顔面をめがけて鋼鉄のパンチが飛ぶ。

体勢的に避けれないこともあって、アルフォンスはそれを甘んじて額に受ける。

「いたいいたい。」

「こっちだって痛ぇの!…お前乱暴なんだよっ…」

「ごめん…兄さん可愛くて…」

謝罪を落としこんだ白い耳がじわりと赤く染まるのを見てしまい、休憩終了。

「あ、アッ!…んん…ン…くぅ…」

「っ…に、いさん…そんなに力入れたら…」

「…ッ、」

「…え?」

「……い、ま…うごく、なっ…!」

そこはかとなく情に染まった表情で動くなと云われても実行できるわけがない。

ちらりと申し訳なくは思いつつも、衝動にまかせてアルフォンスが腰を打ちつける。

紺の軍服が動く度に、エドワードの白い内股が震えた。

「~…ッ、ア、あぐ…ぅう…ん!」

「はぁ、はぁ…ごめん、」

ずるずると引き抜かれ、脳髄まで響く注挿に涙が零れる。

兄が涙を流しているのに気がついたアルフォンスは眼尻に舌を這わして謝る。

ぎゅっと眼を閉じていたエドワードは涙をぬぐわれて薄く眼を開ける。

 

「…も…ムリ……意識持たない…」

「えぇ…ちょっと待って、」

「ふざけんな…こっちは声抑えんのに必死になってんだぞ…血管切れそうだっつーの。」

にわかに低くなった兄の声に弟は背を丸めてごめんと呟く。

「唇噛み切りそうだぜ…」

「なんか口に入れる?」

「あー…手袋とかか?」

「デスクに置いてきちゃった…」

「俺の…はコートん中だ…」

アルフォンスが運んでいたエドワードのコートは今扉の近くでカバンの上に横たわっている。

微妙に遠い。

 

「あー…もういい。手ェ貸せ。」

「え…えっ?」

「お前の手でいい。」

 

ごとりと頭を机に落とし、エドワードはアルフォンスの手を引いて自分の口に当てた。

アルフォンスの汗ばんだ肌のすぐ下で唇が動く。

 

「お前、塞いどけ。」

「…うわ…」

「あ?どした―ッ…ン!?や、ッ…ッ!!」

「なんか、コレ…無理矢理兄さんの事、犯してるみたい…」

「っぷは…このドアホ…」

 

頼むから後一回で終わりにしてくれと、と掠れた声が埃と共に床に落ちた。

小さな部屋からくたびれた軍人と国家錬金術師が出てきたのはそれから40分も経ってからだった。

​国家錬金術師と軍人

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