鋼錬、あんスタ、ぬら孫のBL二次創作サイトです
べったりと不自然な色に塗った唇に、笑みを貼り付けて
画面の中で女が云った。
『愛してる。』
嘘だもんねついさっき別の場所で別のカオで別の男に同じ唇で愛を紡いでいたくせに。
おいお前もだまされてんじゃねーよバーカいい加減気づけ!
なんて水を飲みながら頭の中で突っ込む。
いちいち突っ込むのも疲れるので、古い古い映画を垂れ流す箱の電源を切ってしまおうとリモコンを掲げた瞬間、
『貴方だけを信じてるの。』
歪な笑みをかたどった唇が違う言葉を発した。
云われた男はとても嬉しそうで。
二人が唇をくっつけている場面が大写しになるまで俺はリモコンを持ったまま突っ立っていた。
「どうした?」
生暖かい手が肩に置かれる。
上を見上げるとぽたりと雫が額に落ちた。
「……。」
無言で相手を見上げていると、無邪気とも云える顔を(そのトシで無邪気ってアンタ)返された。
「…映画。」
無邪気だった顔がきょとんとなる。
直後に、目線がまだつけっぱなしにしていたテレビに移る。
「あぁ…コレか。また古いものをやっているな。」
「知ってんの?」
「この女優の代表作品だな。名前くらいは知ってるんじゃないか?」
「知らん。」
ブツン、とその有名女優の顔を消すと俺はごろりとベッドに横になった。
「観てたんじゃなかったのか?」
返そうとした言葉は、くあ、と欠伸に負けてふわふわと散っていった。
「コドモは眠いか?」
くつくつと忍び笑いをもらす失礼な野郎は無視。
俺はしばらくの間奴が髪の毛を拭くのを眺めながら思案した。
「…なー大佐。」
「何だ。」
「信じてるって云われたら嬉しい?」
貴方だけを。
貴方だけを信じてるの。
さっきのフレーズがぐるぐると回る。
云われた男はとても嬉しそうにしていた。
何故だ?
「信じてる、か。」
「嬉しい?」
「どうだろうな。」
「…大佐もわかんねークチか。」
「何だそれは。」
「コッチのハナシ。」
はーぁ、と溜息をつきながらブーツを脱いでいると、ぎしりとベッドの片側が沈んだ。
「相手にも寄るが、まぁ…大概の場合、怖いだろうね。」
「怖い…かぁ?」
意味がわからなくて俺は首を巡らせて、まだ雫でぬれている背中を見た。
「怖いよ。とてもね。」
「どんな意味で。」
「いろんな意味で。」
「…ふぅん…。」
「参考にはならないだろうね。」
振り向いて大佐は苦笑した。
「…別に?誰かに云うつもりもないし。」
「そうか?」
相手と場合と使い方によっては愛の告白にだって使えるかもしれんぞ。
大佐の言葉を、俺はゲラゲラと腹を抱えて笑い飛ばした。
「愛の告白!いいね、それ!」
ヒー!と腹を抱えていると、ムッとした声で何がおかしい、と聞かれた。
「だってアンタ、俺が愛の告白なんてすると思うか?」
「…わからないだろう。」
「しねぇよ。んなコト。」
「わからないだろうと云うのに。」
無いね。無い無い。
仮にあったとしても『信じてる』だなんて。
「君は人を信じないのか?」
俺の身体を跨ぐようにして手をつき、大佐が覗き込んでくる。
「ヘッ…信じてたとしてもわざわざ云わないね。」
「云ってあげればいいのに。」
「言葉にするのは信じてない証拠だ。」
「厳しいね。」
ぽたり、頬に冷たい雫。
「…なぁ、まだなんか用?」
「話しかけてきたのは君ではなかったかな…。」
「知るか。俺は眠いの。つかぼたぼた汁たらすな冷てぇ!」
「汁とは何だ汁とか!!」
「うるせぇ怒鳴んな!」
ガバッ、と身を起こした大佐の手をかわしてベッドの端に寄る。
「鋼の。」
「うるさい。」
「はがねの。」
「なんだよ!」
思わず毛布を跳ね上げて振り向くと、黒い色と眼が合った。
「信じているよ。お前を。お前の力を。」
「―――っ…!」
信じてる、
シンジテイル、
真っ黒な眼に自分の姿が映ってる。
ぐわぁあん、と視界が回った。
かならず、必ず戻すから、
『うん、信じてるよ』
絶対だ 俺を信じろ、
『うん、その時は兄さんも一緒にね』
遠い声、幼い声に別の声が割り込んだ。
「…どうだ?」
「……っ」
「嬉しかったか?それとも怖い?」
「なっ…てめ…!」
「知りたがっていたようだからね。」
試されたとわかって俺は床に置いてあったブーツを引っつかんだ。
顔面に目掛けて叩きつけてやろうと思ったのに、伸びてきた腕に身体ごと掬われた。
「なんだ?真っ青じゃないか。」
「ッ!」
大佐に顔を覗きこまれて手を取られる。
「指も冷たい。どうした?」
「っるせぇな!」
勢いをつけて身体を反転させてベッドに突っ伏す。
最悪だちくしょう。
「どうした?お前らしくもない。」
頭に手を置かれる。
振りはらう気力もなかった。
「何を怯えている?」
「…誰が……勝手に妄想してくれんなよ。」
「それは良かった。安心したよ。軽口で酷く怖がらせてしまったのかと思ったよ。」
「だから!勝手に妄想すんなッ。」
がばっと起き上ると嘘くさい笑みを顔に張り付けた男と眼があった。
「それとも嫌なことを思い出させたかな?」
にっこりと笑う顔に今度こそ枕を投げつけると、俺は自分のよりも大きな手から逃れた。
「こら、何処へ行く。」
「だー!もう!眠いの!俺は!」
「体力がないな。それでも軍属か?」
「他の錬金術師よかはあるわ!」
「これは鍛え直してやれねばならんなー。」
「聞け!!このハゲ!」
「誰がハゲだ!!」
今すぐこの手で一本も残さずに毟ってやろうかと思ったけど、頬に伸びてきた手に再びやる気が失せた。
「話を聞けよ、アンタはよ…」
「聞いているよ。話さないのはお前の方じゃないか。」
自分だって話さないくせに。
信じてる
信じてる
信じて
信じて
しんじて
さっきの台詞がエンドレスで反響する。
何もかもめんどくさくなった俺は目を閉じると流されるまま組み敷かれた。
I believe