鋼錬、あんスタ、ぬら孫のBL二次創作サイトです
弟よ。
俺の可愛い、可愛い弟よ。
「あ。」
隣を歩いていた弟が突然立ち止まった。
どうしたのかと振り向くと、アルは道の向こう側をじっと見つめていた。
…つか、見蕩れてた?
目線を追うと、その先にはさらさらとした栗色のロングヘアーの女のコ。
グラマーというよりはむしろスレンダー。
顔も小さい。
ぴったりと脚に張り付いたブーツが足首の細さを強調する。
一通り女のコを観察してから、アルの方へ眼を戻すと、ヤツの目線はまだ通りの向こう。
この様子じゃあ頭ん中は道どころかお空の向こうに行ってそうだなぁオイ、なんて
一人頭の中で笑いを堪える。
このまま放っておくといつまでも見蕩れていそうなので俺は左手で思いっきりアルの背中を叩いてやった。
「オイ!いくぞ!」
「!」
バンッ、と叩かれたアルはギクリと固まってから、
ギクシャクと首を動かして女のコから眼を引き剥がした。
「へ?」
「へ?…じゃねーよ。ったく道のド真ん中でいきなり立ち止まるんじゃねーよ。行くぞ。」
「あぁ、うん…。」
夢見心地の声。
なんだコイツ、マジ惚れか?
顔を見ると少し赤い、気も、するが…。
……へぇ?
弟の珍しい姿を歩きながら観察しているうちに、悪戯心もとい兄貴心がむずむずと疼いた。
「何、そんなに好みだったか?」
「え、う…うん。」
からかうつもりで聞いたのに、驚いたことにアルは素直に頷いた。
頭の中にさっきの子を想い描きでもしてるような顔。
「うん…あんまりぴったりだったからびっくりした。」
「そんなにか。」
「うん。危なかった。」
危ないってなんだ。
…それにしても随分素直だな。
アレか?混乱してて何いってっか判断できてない?
「はぁん…けどよーそんなになら声かければ良かったじゃねーか。」
俺の提案にアルはきっぱりと答えた。
「だめ。絶対だめ。正面から見る勇気ないよ。」
「イイ、って思ったんなら近づくなりなんなりすりゃあいいのに。」
「簡単に云わないでよ…」
ぷるぷると頭を横に振ると、アルは溜息を吐いた。
何だコイツ随分オクテだったんだな。
あんなにカノジョが欲しい欲しいって喚いてたくせに。
「そういやあお前の好みってどんなの?」
「え、なんだよいきなり。っていうか珍しい。」
いや、珍しいのはお前。
「聞いたことねぇなと思ってよ。オラ、この際全部吐け。」
「えー…」
困ったような顔をしつつも、アルの眼がくるりと上を向く。
考え事をするときのこいつのクセの一つだ。
「そうだな…まず、眼が綺麗なコ…かな。毛の手入れが出来てるコ。色はブラウンとかゴールドが好きかな?」
「いや毛って。」
「あ、でもね!この間本屋の側ですっごく可愛いコを見かけたんだよー。ブラックでね、シルバーのチェーンがすっごく似合ってて!」
「ゴールドとブラックって随分違うくね?」
「うん。色はあんまり拘らないみたい。」
楽しそうに語る弟は、いつもより少し幼く見える。
大人びているようでもこんなトコあんだなー…。
弟の意外な一面が見れて楽しい俺は、続きを促す。
「あとは?」
「ふっくらしたコも好きだけど…どちらかと云えば手足が長くてスラっとしたコがいいな。」
「ほうほう。」
「後姿がキマってるんだよね、そういうコは。」
「ほーう。」
「しなやかな動きで、」
「ふむ…?」
「抱き心地がいいコ。」
「…なんかやらしいな、お前。」
段々アヤしくなってきたフレーズに思わず突っ込むと、アルは心外そうな顔をした。
いや、そんなきょとんとされてもだな。
「えー?そうかなぁ…」
首を傾げながら、フツーだと思うんだけど…とのたまう弟。
いやまぁそりゃフツーなんだろうけどよ。
フツーの人はフツーそう云うことをハッキリと云わないのがフツーなわけであって。
「ふーん…なるほどねぇ。」
「分析中ですか、国家錬金術師殿?」
ふざけて俺を覗き込んでくるアルに真面目くさった顔で答えてみる。
「うむ。しかしデータが足りん。外見はわかったけど中身はどうなんだよお前。」
「んー少しくらい我儘なほうが可愛いかな。懐いてくれる方がそりゃ嬉しいけど。」
「何、お前振り回されたいの?」
ひょっとしてマゾ?と口許を押さえてわざとらしく驚く俺の足許にローキックをしかけながら、アルは違います、と否定した。
「相手は自分より弱いし。小さいし。それでも強気に我儘いってみたりするところがなんとなく可愛いの。」
「細かいなー。俺なら振り回されるのも我儘も勘弁だけどな。」
「えー?じゃあどういうとこが好きなのさ。」
「む…?」
思わぬ返しに、俺はごにょごにょと口の中で誤魔化してから足を速めた。
「あ、ちょっと逃げる気?」
「俺のことはいーの!今はお前のデータ集めてんだから。」
「何のためにだよソレ。」
「ん?そうだな…」
「今考えるのかよ。」
「あ、あれだ、お前の恋愛観をたたき出した上でどんな女性がぴったりかを判断する。」
「えー?」
せっかく考えた答えに、アルが信じられないという顔をして笑う。
「何だよそれー。」
「何だじゃねーだろ。せっかくお前の為にだなぁ…!」
「はいはい…でも兄さん、どうして好きな猫のタイプを聞いて恋愛観がわかるの?」
……。
Excuse me?
天才と云われた俺の頭脳が3秒ほど停止した。
むしろ天才故に3秒ですんだのかも知れない。
ようするにそれほど衝撃的かつ信じがたい事実だったわけでって、
「ちょっとまたんかァーいッ!!
ってことは何か、今までお前は延々と好きな猫のことを話してたってわけか!?」
「え…だって兄さんが聞いてきたんだろ、」
俺の突然の怒声に、アルは訳がわからない、とばかりに一歩退いた。
つか誰がお前の猫のタイプなんぞ知りたいかボケ!
「俺はお前が女の子に見蕩れてっからそう聞いたんだ!」
「えぇ!?見蕩れてたって、いつ!?」
そんなことしてないよ!とアルが飛び上がる。
「ついさっき!道のど真ん中で立ち止まってまで見てただろうが、穴が開くほどよ!」
ようやく思い当たったのか、アルは「あぁ、」と声をあげるも、またしても首を傾げた。
「それは覚えてるけど…女の子は見てなかったよ?」
「……一応聞くけど、じゃあ何」
「道を歩いてた猫。」
「…あそう。」
一気に疲れて脱力した俺はアルに荷物を押し付けるととっとと歩き出した。
はーぁ、なんだコレ。
「ちょっと、なんなんだよ一体っ。」
わけがわかんないよもう、と二人分の荷物を抱えて、怒りながらアルが後を追いかけてくる。
それを一瞥してから、俺は腕を組んだ。
「…わかったぞ。お前の恋愛観。」
「え、嘘。」
さっきの会話を反芻して、俺は苦笑する。
今日で良ーくわかった。
弟よ。
可愛い弟よ。
お前に恋愛はまだ早い。
My Dearest Little Brother.