鋼錬、あんスタ、ぬら孫のBL二次創作サイトです
暖かい陽気の4月。
ふんわりとレースのカーテンを膨らませて入ってくる風はすっかり春の匂いがする。
風にも匂いってあったんだなぁ、なんてしんみりとしながら僕は開けてあった窓を閉めた。
こんないい天気で、気持ちのいい風が吹いているのに何故僕は窓を閉めているのか。
原因は後ろのソファーで背を丸めて本を読んでいる。
「ごほっ…ごほん」
季節の変わり目。
くしゃみが出続けるなら花粉症を疑うところだけど、さっきから聞こえてくるのは咳。
それも、聞こえないように抑え気味な咳。
寝ているときまで活発な兄はそのアクロバティックな寝相のおかげで毛布との仲がよろしくない。
朝まで仲良くくっついていることは滅多になく、大概どちらかが床に落ちている。
どうせまたお腹を出して寝てたんだろうな。
ホント懲りない人だ。
いっそ両手両足を縛り上げてベッドに転がしておこうか。
寝相が悪いくせに本人は一向に気にする様子も無い。
おまけに風邪をひこうが腹痛を起こそうが断じて薬は飲まないという傲慢。
台所でお湯を沸かしていると、また控えめな咳が聞こえてきた。
ホント…気づいてないとでも思ってるの?本気で?
いい加減腹が立ってきた。
湯気のたつマグカップを片手に僕は不必要なまでに気配を絶ってソファーの後ろに忍び寄った。
「…コラ馬鹿兄。」
「っ!!」
呼ばれた彼はびくりと身をすくませて振り向く。
どさり、と重たそうな音を立てて本が床を打つ。
「…いつもは僕が何回呼んだって気がつかないくせに。それだけ気が散ってたってこと?
大好きな本を読んでるのに一体どうして集中できてなかったんだろうねぇ、兄さん?」
びくびくと警戒しながら振り向いた彼に、大げさなくらい肩を落として溜息をついてみせる。
「なななんのことかねアルフォンスくん。」
薄々気づいているだろうに、まだしらばっくれる気らしい。
ホントにいい根性してるね。我が兄は。
「本、拾いなよ。」
「う…」
ことさら冷たく云ってやると、兄さんは云い返さずに身をかがめて本を手に取った。
自分の頭よりも大きいそれを両手に持って、複雑な顔をして眼を泳がせている。
「ア、アル…その…っ…」
何とか言葉(言い訳?)を捜しているうちに咳がこみ上げてきたらしい。
マズイって顔をして口をぎゅっと閉じてる。
あぁ、もう…ホントむかつくね。
「兄さん。」
前に回って、背を丸めている兄さんの隣に腰掛けると、僕はにっこりと微笑んで、
気を緩めた彼の内股をつーっとなで上げた。
「ぶっ…ぐっ…げほげほげほっ、ごほっ!!!」
今まで抑えていた分まで出すように咳き込んでから、兄さんはぜぇはぁと肩で息をしながら僕を睨み付けた。
「お、まえ…なにす…」
「この風邪っぴき。」
「う、ち、ちが」
「バレないとでも?」
「ぐ、」
「僕をナメてるの?」
「ぃや、ちが…その……」
また苦しそうに咳をしはじめたので、僕はこのへんで勘弁しておいてあげようと、手を伸ばして背中をさすった。
我ながら甘いなぁ…。
「はい、兄さん。コレ。」
「…?」
「どうせ云ったって兄さん薬飲まないだろ?だからコレ。」
はちみつレモン。ジンジャー入り。
喉にやさしく、風邪っぴきに飲ませるには丁度いい。
「さんきゅ……悪ぃ」
「そう思うなら早く治るように努力してください。」
「ん…」
しおらしく頷いてマグカップに口を寄せる兄さんをみているとちょっとやりすぎたかなという気になってきてしまう。
「熱はないの?」
「ん。」
「くしゃみは?」
「ない。」
「咳は、いつから?」
「えーっと…昨日、から?」
「……昨日お風呂上りパンツ一丁でうろうろしてたよね。」
「や、あれはー…っつうかあん時は暑かったんだって!あーそういえばまだ咳も出てなかったような~」
「髪、乾かして寝た?」
「ぅ…あれ、めんどぃ…し」
ぷち。
頭がいたいのはきっと堪忍袋の緒が頭にあるからだ。
きっとそうだ。
「兄さん…薬飲めないんだよね。」
「へ…?」
「わかった。薬は飲まなくていいよ。その代わり、
注射を打ってもらおう。」
「!!」
さぁ行こうすぐ行こうと逃亡を図った兄さんの腰を掴んで小脇に抱えて僕は立ち上がった。
「ぎゃあぁあ離せいやだ助けて殺されるぅ!!」
「静かにしなさい。喉に悪いよ。」
1.おくすり
どこまでもおにいちゃん中心な彼が好きです。