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丸一日太陽に見つめられながら、

でこぼこの道を歩き通してようやく町に辿り着いた。

今日一日仲良くしていた太陽は昼間の真っ白な光から柔らかい朱色に着替えて世界を染めている。

 

ぐるりと一周するのに半日もかからなさそうな広さの海辺の町は、早寝早起きがモットーらしい。

随分と人通りが少ないと思ってそのへんの人に尋ねてみると、そう云われた。

とりあえず、今晩泊まれそうな処はありますか、と聞くとこの先に一軒あるよ、と指された道を歩いていく。

大きな倉庫っぽい建物が並ぶ通りを歩いていると、前を歩いていた兄さんがぴょん、と低い塀の上に飛び乗った。

 

「へっへー、お前より高くなった。」

 

くるりと振り向いて笑った顔があんまり嬉しそうで、注意する気がそがれてしまった。

 

「落ちないでよ?」

 

赤茶の煉瓦で出来た塀の向こう側、はるか下のほうに砂浜と海。

きっと普段は白く輝いている砂浜は、今は水平線の少し上でゆらゆらと揺れている夕陽のピンクっぽい色を吸収していた。

 

「大きいねぇ。」

「んー。」

「夕日って、真っ赤なイメージがあったんだけど、結構色んなバリエーションあるよね。」

 

赤色、クリーム色、ピンク色、オレンジ色。

それから、下の方では薄紫色、紺色、水色。

 

首を巡らすと、ピンクオレンジの世界で二つの真っ黒な影が長く、長く、伸びていた。

はやく、宿を探さないとなぁ、と思っていると、

 

「~♪」

 

ざざぁ、ざぁ、という波の音に紛れた音色。

機嫌よく前方を歩いている兄へ眼をやる。

例え鼻歌でも、彼が唄うなんてとても珍しい。

どうも、自分の歌声に自信を持っていない様子だったから。

 

「~♪~~♪」

 

はやく宿を探さないとなぁ、と思うのに。

 

なんとなく胸をしめつけるそのメロディに、僕は足を速めることができなかった。

2.メロディ

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