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犯罪者が近くで逃走中という知らせを受けたのは前日のことだった。

「怪我はどれも心配ないですよ。問題は耳ですね…」

医者は、「音響外傷」と病名をつけた。

人が処理できる音量には限界があるらしい。間近で爆発に巻き込まれた俺は、手足だけでなく内耳にまでダメージを受けてしまったらしい。

耳が詰まっているような感覚と、耳鳴りが止まない。

しばらくの間、俺の聴覚は低下したままらしい。

大事をとって入院されますか?という医者の唇を読みながら、首を横に振った。

 

「それでは2日後にもう一度いらしてください。」

 

看護師が外で待っていたアルフォンスを呼びにいき、戻ってくる。

アルは大きな体を医者に向けて曲げると、腕を俺に差し出した。

立ち上がると、ぐるん、と世界が足の下で回るような気がした。

 

「———ので、気を付けてあげてください。心配があれば、いつでもご連絡下さい。」

 

何を気を付けるべきか読み逃した俺は、あとでアルに聞けばいいやと考えて、ひょこひょことアルの腕につかまりながら診察室をでた。

処置してもらった足が痛んで、部屋をでたところでいったんベンチに座ってしまう。

見かねたアルは、とんとん、と俺の膝を叩くと受付を指した。

 

「清算、頼めるか?薬もでてるらしい。」

 

鈍い色の頭が一度頷く。アルは立ち上がると受付にいた看護師に体を向ける。

看護師が反応して、紙を見せながら説明を始めたのを見て、俺は細く息を吐いた。

 

今の俺には、アルの声が聞こえない。

 

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