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鋼の錬金術師の功績で、市内のビル倒壊は最小限の被害に抑えられたことをロイ・マスタング大佐は喜ばしくは思っていた。

しかしながら、代償は、エドワード・エルリックの一時的な聴覚の低下だった。

報告を聞き終えたロイは目前の少年を見下ろす。当人はけろりとした顔で立っている。

「耳が…まぁ、戦争では珍しくもないが…災難だったな」

「あー今回のはまだマシ。今日はもう帰っていいかな」

耳に違和感があるのか、片耳をしきりに手のひらで押さえながら、エドワードはしかめっ面をしている。

一方、ロイはエドワードの台詞に引っかかる。

「今回は…って、」

「兄さん!!もーーー!学習しなよね!」

「わっ、掴むなよアル!」

質問をする前に、大柄な鎧姿のアルフォンスが驚く勢いでエドワードの首根っこを掴んだ。

「ホークアイ中尉に聞いたんだからねっ。信じらんない!なんでそう突っ込んでいくんだよ!」

「そう怒んなよー結果オーライだろ」

「どこが!自分が怪我しちゃだめだろ!」

「やられてねーよ、耳やられただけだ」

「明日治ってなかったらまた病院だからね」

「大丈夫だって、今回は目眩してねーし、音聞こえねーだけ」

「兄さんなんか注射してもらえばいいんだっ」

ぎゃいぎゃい言い合いながらその場を離れていく兄弟を見ながら、ロイは思わず呟く。

「……耳が、聞こえないというのは私の聞き間違いか…?」

「いえ、確かに、診断はそうでしたけど。私たちと話すときも唇を読んでいるようでしたし…」

「じゃあなんで大将………わかるのか。そうか…すげぇな…」

ロイのつぶやきを隣にいたリザとジャンが拾う。

誰かがぽつりと、流石エルリック兄弟、とこぼした。

Acoustic trauma

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