鋼錬、あんスタ、ぬら孫のBL二次創作サイトです
俺の弟は猫に弱い。
どれくらいかっつーともうめろめろに弱い。
普段テキパキと動いてヘタしたら俺よりしっかりしてんじゃないのお前って姿からは想像できないくらい、でろでろに弱い。
旅の途中びくびく震えている猫を拾ってきた回数は数知れず。
それを元の場所に戻して来いと怒鳴った回数も数知れず。
そんなに猫が好きならもういっそ猫の子になっちゃいなさいなんて、
猫耳をつけて母猫にすりよるでっかい鎧を想像してみる。
あっはっは超怖ぇ。
「何にやにやしてるのさ、兄さん。」
「お?」
眼をあけると、頭の中では母親猫に嫌がられて顔に引っかかれていた鎧が目の前に。
頭の後ろで手を組み、ベンチに寝そべっていた俺を、アルが身をかがめて覗き込んでいた。
もちろん猫耳も引っかき傷もない。
「一人でにやにやうふうふしてたら気色悪いよ。」
「うふうふってなんだ。」
「だって笑ってたよ。何考えてたの?」
あんまりな云い方なので俺は脚を組みかえると、むむっと眉間に皺を寄せた。
「大きな誤解をしているぞアルフォンス君。軽率な判断で兄上の崇高なる思考を貶してはいけない。」
「崇高?どちらかといえばいやらしいことを考えてる顔でしたが?兄上。」
「そういやああの海辺の町のパン屋の子すっげ可愛くなかった?」
「ちょっと、急に起きないでよ。食いつかないでよ。」
「みゃー」
「「あ」」
アルが急に身を引いたからか、今まで存在を無視されていたからか、大きな手の中に大人しく納まっていた茶色の毛玉が声をあげた。
俺がうだうだとベンチと仲良くしている間、アルが遊んでやっていた子猫だ。
近くでみると、茶色、というよりはオレンジに近い色をしている。
前足と後ろ足の端っこだけ白い。まるで短い靴下をひっかけてるような。
「兄さんがおかしなこというから突っ込んだんじゃない?」
「バカ云え。ホントに可愛かったんだぜ。お前覚えてないのかよ。」
再びベンチに背を預けると、腹の上に猫を降ろされた。
何をする、と云ったら重石、とか云われた。
「そんなピンポイントで云われても覚えてません。」
「えー?ついこの間までいたとこだぜ?パンの他にねずみの形のホワイトチョコとか置いてたパン屋。」
ガラスケースの中のバスケットに展示された小さなねずみはとても可愛かった。
敷き詰められた藁の合間をちょこちょこと走り回っているように置かれていて眼をひかれた。
眼をひかれたら手にとってみたくなって思わず一袋買ってしまったのだ。
黒い眼やピンクの鼻までついてて芸が細かかったよなーなんて思い出していると、アルがぎしりと身体を軋ませた。
「え、ちょっとまって」
「あん?」
「そのパン屋ってまさか」
「だから海辺の」
「緑の屋根の?」
「赤と白の日除けの」
「えぇえ―――!!」
突然素っ頓狂な声をあげるので俺は思わず目を開き、子猫は短く声をあげて飛び上がった。
手足の小さな重みがせわしなく腹の上を移動している。
「あーあーでっかい声だすなよ。」
「だって…あの子いくつだよ!」
「えー、確か5つ?」
「犯罪じゃん!!」
ようやくアルフォンスが何を騒いでるのか判明して俺は慌てて上半身を起こした。
「な…馬鹿野郎っ、そういう意味じゃねぇよ!」
「だってにやにやしながら5歳児のことを考えてたなんて…」
「だからそれは違うって!にやにやしてたときは別のこと考えてたの!パン屋の子はまた別っ。」
「にしてもあんなに食いつくなんて、」
「それ以上いってみろ一時間後列車の先頭にくっつけて練成してやる。」
「え、まだそんなにあるの、時間。」
「おうよ。」
「長いねぇ。」
「長いなぁ。」
「それまで兄さんの怒りはもつかな?」
「どうかねぇ。」
そういって手を組みなおす俺の怒りは既に溶けてなくなっている。
熱しやすく冷めやすいのは自覚している。
アルフォンスの云うとおり、きっと一時間後には怒りどころか原因さえきれいさっぱり忘れてるだろう
アルもそれはわかっているが、それ以上話は引っ張らない。
お互いに初めから本気でないのは承知。
「みゃー」
「ふん?」
思考の途中で、ふにっ、と唇を押されて俺はまだ子猫が乗っていたのを思い出した。
冷たい小さな肉球が動くか試すように何度か唇を押して遊ぶ。
「どうしたーつまんなくなったか?」
手を伸ばして左手で頭を撫でてやると、そいつは気持ちよさそうに眼を閉じた。
「…拾うな連れて来るな捨てて来いって云う割には、そんな顔するんだね。」
「あー?」
そんな顔ってどんな顔、と聞きたかったが、がしゃりとアルが身じろいだ音に気がそがれてしまった。
「猫、可愛いね。」
「…列車がくるまでだぞ。」
「わかってる。」
「餌はやるなよ。」
「うん。…いつもごめんなさい。」
「うん?」
「ごめんなさい。」
「…まぁ、よろしい。」
一つ下の聡明な弟は、何故俺が頑なに動物を傍に置くのを拒むのか良くわかっている。
それでもあいつが思わず手を伸ばしてしまうのは、もう理屈じゃないんだ。
だから俺も必要以上のことは云わない。
黙って胸の上に移動してきた暖かい体温を撫でる。
賢い頭に優しい心ってのもつらいもんだな、弟よ?
けど安心しろ。
お前のためなら俺はいくらでも心を鬼にしてやる。
優しすぎて自分を傷つけてしまうお前のために。
「…ホントは兄さんだって好きなのにね、猫。」
ぽつりと独り言のように鎧の隙間から零れた音。
「………猫は嫌いだ。爪あるし。気まぐれだし。毛玉はくし。」
「…悪さをしなければ引っかかれないと思うけど?」
「俺がいつどこで誰に悪さしたっていうんだ。」
「多すぎて今日中に答えられる気がしません。」
「なんだと?」
一つ下の聡明な弟は、俺が話をそらしにかかったことに気がつかないフリをして乗ってくる。
むっとした顔で怒る俺に、しれっと言い放ったり、怒り返してみたり。
お互いに、初めから本気でないのは承知。
それでも、俺たちは次の列車がくるまで掛け合いを続けた。
3.ねこ