鋼錬、あんスタ、ぬら孫のBL二次創作サイトです
もしもし、
こちらエドワード、どうぞ。
「あれ?」
チェックアウトの手続きを済ませ、終わったよと後ろ斜め下を振り向いたアルフォンスはがしゃりと首を傾げた。
さらに目線を下げて見るがそこに探しているものは無く。
置き去りにされた大きなトランクが一つ、ぽつりとあるだけ。
とりあえずそれを手にすると、宿屋の主人に頭を下げて外へでた。
「もー何処にいったんだろー」
大きな身体にそぐわない少年の様な声で呟きながら、アルフォンスは左右へ首を巡らした。
「あ、居たっ。」
意外に近くに目的のものを見つけ、彼はがしゃがしゃと標的に向かって走り出す。
向かった先は町の中央にある噴水。
周辺に敷かれた石畳の上で数人の子供たちが集まっている。その中心あたりに、
こちらに背をむけてべたり地べたに座っている赤コートの人物に声をかけた。
「兄さーん黙って離れないでよ。びっくりするじゃないかぁ。」
「おわ!?アル、お前そこ立つなよ、影んなるだろ!」
金色の三つ編みを翻し、そう宣う兄に弟はやれやれと嘆息した。
「わー…おにぃちゃんおっきいねー」
「すげー!つよそー」
「でけぇー!」
「これ暑くないのー?」
突然現れた大男(に見える)に、エドワードを見守っていた子供たちがわぁわぁと群がった。
「こんにちは。何してるの?」
「あのねーいとでんわ作ってたんだけどね、」
「ミミが転んで糸をこんがらせたんだ!」
「ルトが悪いんだよー!ミミのこと押したー!」
「そうだよ、わたし見てたもんっ。押したよー!」
「押したんじゃねーよ!」
「あぁー、ケンカはだめだよ、」
栗色のボブの女の子と黒髪の短髪の男の子を引き離しながらアルフォンスが困っていると、
「おっしゃあ出来たっ!」
満足げなエドワードの声にぴたりとケンカが止んだ。
「ホント!?」
「みせてみせて~!」
「オレも~!」
来た時と同じ勢いでわらわらと子供たちがアルフォンスからエドワードにうつる。
キラキラと眼を輝かせる顔から、先程の云い合いなどきれいさっぱり忘れている様だ。
(―――うーん…可愛いけど久々だとテンションについていけないなぁー)
若干置いてけぼりを食わされた気分でアルフォンスしばし迷ってから子供たちの塊の側に寄っていった。
「ほーら、完璧だろ?」
そういってエドワードが差し出したのは、黄色と赤色の紙コップでできた糸電話。
足許にはもう一組、こちらは白い紙コップでできたものもころがっている。
「わぁーい!ありがとー!」
礼をいって受け取った赤毛の女の子の頭を撫でるとエドワードは勢いをつけて立ち上がった。
ふと隣りへ眼をやると、先程ルトと呼ばれた男の子が白い紙コップの糸電話を手に持ちながら不満げな顔をしていた。
「なぁーこれさっきのより糸短いよ。」
「さっきのは長すぎたから絡まったんだよ。それにお前ら4人だろ?二つあれば丁度いいじゃん。」
「長くていいんだよ!そしたら家にいたって話せるじゃん!」
尚も食い下がる子の顔をみて、エドワードはにやりと口許を弛ませた。
「はっはーん。なるほどねぇ。」
「なっ、なんだよ!!」
エドワードはしゃがみこみ、肩を怒らせた男の子の肩に腕を乗せる。
「お前ルトだっけ?」
「お、おうっ」
「そうかそうか。あのなぁ、ルト?
好きな子とは顔をみて話したいと思わねーか?」
「なっ…ば…誰が!!」
「ひゃはは、うそうそ、冗談っ。」
「このっ…!」
日に焼けた肌を真っ赤にしながら、ルトは反撃とばかりに目の前にぶら下がっていた三つ編みをぐいっ、と引っ張った。
「あいででで!何すんだお前!」
「うるさいうるさい!アンタが悪いんだ!」
「なんだとー!_」
片や三つ編みを掴まれたまま、片やほっぺたを摘まれたまま云い合いを始めた二人に、ミミがアルフォンスを見上げた。
「止めなくていーの?」
「あれは兄さんが悪いしねぇ…」
「アルフォンス!お前見てただろっ!ただの冗談っていってんじゃねーかっ!」
「何いってるんだよ。思いっきりからかってたじゃないか。
どうでもいいけど、いい加減出発しないと日が暮れる前に次の町につけないよ。」
「おっとそうだった。」
アルフォンスの言葉にエドワードはまだかっかしているルトを引き剥がすと子供たちにヒラヒラと手を振った。
「じゃあなー」
「ばいばーい。」
「気をつけてねー。」
トランクを受け取り、噴水から離れたところで、
ぽこんっ
「あたっ」
間抜けな音をたてて、先程作った糸電話がエドワードの後ろ頭に命中した。
「くっ…あのガキ…」
前をむいたままじりじりとしていると、
「一個はお前にやるよ、バーカ!」
背中に投げられた大声と、バタバタと何人もの足音。笑い声。
「だぁれがバカだとこんのクソガキー!!!」
振り向きざまにエドワードが爆発すると、きゃあきゃあと子供特有の高い声が上がった。
「大事にしろよ、三つ編みの兄ちゃん!」
「ばいばーい!」
蜘蛛の子を散らしたように駆けて行く4人を見ながらエドワードは足許に落ちた糸電話を拾った。
掌に乗せて眺めていると、影が出来て弟が隣に立ったのがわかった。
「せんべつ?」
「さぁな。いくぞ。」
肩をすくめて、エドワードは手に糸電話を持ったまま歩き出した。
噴水から町の出口となる門はすぐそこにある。
黒いブーツで町の外へ踏み出して、ぽん、と頭上に糸電話を放り投げた。
「落としちゃだめだよ?」
「ヘーキヘーキ。」
「あの子たち随分懐いてたねぇ。」
「うん?そうか?」
ぽこん、ぽこん、
放り投げられる度に紙コップ同士がぶつかる音がする。
「あのルトって子だって。最後にはそれくれたし。」
「投げつけてな。」
「ふふ、三つ編みの兄ちゃん、って云ってたね。」
アルフォンスの思い出し笑いに、前を歩いていたエドワードの足が止まる。
ぽこん。
「兄ちゃん、か。」
ぽつり、少し俯き加減になった頭から零れた言葉に、アルフォンスは訝しげな声で呼びかけた。
「兄さん?」
しかし、呼びかけと同時にエドワードはくるりと振り向くとアルフォンスを見上げた。
「なぁ、次の町までどんくらいかかるって云ってた?」
「え…うまく行けば今日の夕方には着くっていってたよ。平坦な道だし…途中で森の中を通ることになるけどそれもすぐ抜けるって。」
「ふむふむ。じゃあ今日は一日歩きってこと?」
「そういうこと。」
「そうかそうか。」
「…何か?」
わけがわからないアルフォンスが尋ねると、エドワードは、
「いいえ?」
にっこりと笑ってから少し身を屈め気味の鎧の頭に目掛けて、
ぽこっ、
「わっ…ちょっと何するんだよ!」
「ナイスキャッチ、アルー!」
糸電話を片方アルフォンスに投げ渡すと、エドワードは笑いながら逃げるように距離を取った。
アルフォンスと平行に並ぶと紙コップを口許に寄せて、ピンと張った糸を弾いた。
兄の楽しそうな顔、(昔よく悪戯を仕掛けている時にこんな顔をしていた)を眼にして、アルフォンスは仕方なく紙コップを兜の横に当てた。
「ハロー、ハロー。えーこちらエドワード、どうぞ。」
少しくぐもった話し声が紐で繋がったコップから伝染してくる。
顔を見なくてもその声が笑っているのがわかるのが不思議だと思いながら、アルフォンスは答える。
「はい、こちらアルフォンス。兄さん、投げちゃ駄目じゃないか。
大事にしろって云われたろ?どうぞ。」
「してるさ。大事に。どうぞ。」
「どこが!」
思わず呆れてアルフォンスがそういうと、エドワードは、
眼を細めるように、笑みを浮かべてから、
「してるさ。」
まるで内緒話をするように、白いコップに唇を寄せて、
囁いた。
「こうやって。お前と。」
町の出口の両開きの門。
向こう側を除いてみると、高く上った陽の下で、
真っ直ぐな道を歩く二つの影が見えた。
大きな影と、小さな影。
平行に並んだ二つの影を、一本の糸が繋いでいた。
04. けいたい電話