top of page

 

 

きっとお前は俺よりも長生きする。きっとそうだ。




 

そう云って兄さんは心から嬉しそうに、微笑んだ。

 

 

 

 

 

下敷きにされているベッドがぎしりと鳴らして、剥き出しのままの足を絡まらせて、兄さんが僕の上にのしかかる。

僕の胸に頭を置いて溜息。

機械鎧の手足がひんやりと冷たい。
 

「どうして、そう思うの?」
 

そう尋ねると、兄さんは頭を傾けて、ぺたり、と僕の心臓の上あたりに耳をひっつけた。
 

「だって生あるものは全て同じ数だけ鼓動を刻むっていうじゃないか。」
 

眼を閉じて、兄さんがその音を確認するように聞いている間、僕は聞いたことのあるその説を、反芻する。

病気や事故に遭遇しない限り、生き物の心拍数は同じである。

だから小さな生き物の鼓動は速く、大きな動物は遅い。
 

「だったら、お前には8年近くブランクがあるんだから、きっと俺よりも長く生きる。」
 

そうだろう?と、確認よりも願望を声に含ませて、兄さんが目線を上げてくる。

まださっきの名残でほんのりと目元と唇が赤い。

そこ意外にも、白い肌に色が点々と咲いてて、ふやけた脳裏にさっきまでの光景が、
 

「…聞いてるのか、アルフォンス。」

「いたたた!」
 

見蕩れていると、髪の毛を引っ張られてしまった。
 

「聞いてるよ。聞いてます。」
 

慌てて髪を握っている手を取り、指を絡ませて繋いだ。

それにしても、長生き、ねぇ…
 

「長生き、して欲しいの?」
 

貴方がいない世界で?と言外に云うと、
 

「当たり前だ!」
 

と、即答。

ちょっと寂しいなと思いながら天井を見上げていると、
 

「…そりゃ…ちょっとはイヤだけど、さ…。」
 

ぽそっ、と胸の上で漏れた言葉に眼を見開いた。
 

「…心配ないよ。兄さん。」

「あ?」
 

顔を上げて僕を映す金色ににっこりと微笑む。
 

「毎日毎日貴方にドキドキさせられっぱなしだから。8年分なんてあっという間に追いついちゃうよ。」

「だ、だめだろ、それじゃあ!」

「どうして?」

がばりと身を起こして怒った彼の頬を、両手で包んで首を傾げると、兄さんは複雑な顔をして真っ赤に肌を染めた。

全く…天然で鈍感で鈍いくせに余計なことばっかり考えないでよね。

僕が貴方のいない世界でそう長く生きていられると思う?

それも8年だって?冗談じゃないよ。
 

「多分まだ追いついてないからね。頑張って僕をドキドキさせてね。」

「させてねぇしっ…っていうか、それをいうなら俺だってそうだ!毎日まいにちっ、お前のせいでっ、」
 

何の主張なのかもう自分でもわかってないんだろうなぁ…。

でもあんまり必死に兄さんが云うので、

思わず笑ってしまった僕は、また髪を引っ張られてしまった。







 

「でもさぁ…僕ら、父さんの血をひいてるんだよねー…」

「あ。」

 



07.いのち

(追いかけっこ兄弟、世に憚る)



 

​prev                next

bottom of page