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くすくす、

 

ごそごそ

 

大きなタオルケットの中にふたりの人間。


 

「アル、くすぐったい、」

「くすぐってるもん。」

「ん…星をみるんだろ。星を。」

「見てるよ。」

 

お酒を持って、兄さんと二人で広いバルコニーに座ったのは10分程前。

流星群がくるっていうから待っていたのだけど、段々飽きてきてしまい黄色いタオルケットの中身がもそもそと動く。

くすぐったそうな笑い声と、ひそひそ声。

お酒で機嫌がいいのか、拒まれない悪戯。

そのままタオルケットが床に近づくように傾きつつあったのだが…


 

「あ!」


 

ガバッ、と音をたてて身を起こすのが一名。

遅ればせながら、指された方向へ眼をやりつつ起きる一名。

 

「見た?」

「見てない。」

 

ちらりと視界を掠めた流れ星に、兄は期待を込めて空を仰いだ。

 

「もっかい流れろー流れろー…あ、」

「わ、」

 

つつー、と夜空をすべるように星が2つ並んで落ちた。

それをきっかけに、さらさらと星の雨が降り始めた。

流石リゼンブール。眺めは最高。

音まで聞こえそうな気がして、僕たちは耳を澄ましてそれを見上げる。

 

「…願い事、」

「ん?」

「叶うっていうよね。」

「したか?」

「してない。」

 

兄さんなら何を願う?と尋ねてみた。

 

「あー…」

 

星明りを受けて淡い光を跳ね返す金色を、さらさらと風が撫でる。

手すりに頬杖をついた兄さんがちろりと眼だけを僕に向けた。

 

「お前が戻った今、もう願い事なんて何も無い。

 

………って云いたかったんだけどなー。駄目だわ。全然駄目。まるっきり駄目。」

 

なんて苦笑する彼に見蕩れている僕も駄目。

 

「欲にまみれてるっていうもんね。ニンゲンって。」

「他人事のように云うねぇ。」

「とんでもない。これでいて僕も胸を張って人間だって云えるなぁと思って。」

 

にっこりと笑ってみせると、むっとしていた兄さんの顔が紅茶に入れられた砂糖の様に綻んだ。

 

「あはは。そのモノサシじゃ自慢にならないけどな。」

「ね。」

「で?」

「はい。」

「お前は何を願うわけ?」

 

きらきらと光を放つ金色の眼におどけてお辞儀をして、云ったらかなえてくれますか、おほしさま?と聞いたら、

 

どーしよっかなぁ、俺まだ流れるつもりないからなぁー、と、

 

おほしさまは悪魔のように妖しい笑みを浮かべて云った。

 

願いごとなんかしたら、対価として魂を持っていかれそうだね?

08.星

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