鋼錬、あんスタ、ぬら孫のBL二次創作サイトです
絶対安静レベルではないので入院は断ったが、正直絶好調とはいえなかった。
目眩にうんざりして目を閉じていたら、そのまま眠ってしまったらしい。
次に目を開けたときはアルフォンスに縦抱きにされて運ばれていた。
滅多にそんなことはされない。
よっぽど酷い顔をしていたか、俺が起きなかったのか。
アルフォンスの光が俺の方を向く。
何か、言っているのかもしれない。
でも、駄目なんだ。
今はお前の声が聞こえないんだ。
思わず目がアルの口元にいって、医者とのやり取りが頭をよぎる。
浮上した考えを必死で打ち消す。
こんなこと考えるなんて、最低だ俺は。
頭をアルの鎧にぴったりとくっつけてみた。
耳が冷たい鉄に押しつけられる。
この中で、鎧中にアルの声は反響している筈なのに。
日頃は煩いくらいにキンキンと響く声なのに。
どれだけ集中しても、返ってくるのは自分の耳鳴りだけだった。
宿についたのはわかったが、俺は目を閉じたままでいることにした。
騒ぎがあったことは町中に伝わってるだろうだし、一目みれば怪我人だとわかるだろう。
説明するのも愛想をふりまく元気もない俺はそのまま狸寝入りを決め込んだ。
アルは起きているのに気がついていたのか、部屋に戻ると俺をベッドに座らせた。
そのまま何も聞かずに靴を脱がせにかかる。
ブーツを脇にどけた後は左手を大きな掌にとられて、つけたままだった手袋を中指の指先を引っ張ってとられる。
次は右手。こっちは右手のように滑らないので手首からずらして脱がされる。
最後に上着を肩から降ろされ腕を袖から抜かれる。
俺が怪我をしているからか、俺との意思疎通ができないからか、どれもそっと、慎重に触れられて変な感じがする。
まるで、他人同士みたいだ。
アル、アルフォンス。
大丈夫だよな?
お前、そこにいるよな?
また湧き上がった馬鹿な考えに頭を振りかけてやめた。
今そんなことをしたら吐いてしまうに違いない。
そうだ、大体こんな目に遭ってるのは耳と三半規管がやられてるからだ。
とっとと治してしまいたくて俺は渡された薬と処方箋に目を通すとアルミの封を折って破り、昼の分を全部手に取り出した。
最後の一錠をつまんでいるとアルフォンスの手が俺の手を掴んできた。
顔を上げると、アルフォンスの光がじっと俺を見てくる。
だめなんだよ、このままじゃ。
「目ぇ回ってて吐きそうで、食いたくねーんだよ。
…夜は食べるから」
最後のはアルを納得させるつもりで云った。
奴は得心したのか、曲げていた腰を伸ばしてまっすぐ立った。
その間に俺はサイドテーブルにおいてあった水差しからグラスに水を入れるとそれで薬を流し込む。もう一口、二口水を飲んでからグラスを戻して、体を戻すと、まだアルが目の前に立っていた。
なんだ?どうした、アル、と声をかけようとしたその時。
弟はなんだかぎこちない動きで両手と上半身を動かし出した。
茶色い皮の手があわあわとばたついたかと思うと、掌を上に向けて、指を曲げて器を作る。
アルの右手が左手を離れて、スプーンを持つような形になる。
その右手が器とアルの顔の前を上下しだして…
こいつ…そうとうテンパってやがるな?
頭がよくてしっかりものの筈の弟が選んだ意思疎通の手段に俺は一気に力が抜けた。
病院から戻って初めてはっきりとアルの意思と気持ちが読み取れる。
そうだよなぁ、お前だって怖ぇよな。
俺は表情を変えないように口を開くと、言葉を選んだ。
「お、す、し、食べたい?」
的はずれな答えにアルは両手を握って上下に振ってる。
『ちがうよー!もー!兄さんのばかー!』
ガチャガチャとした音と一緒に、聞こえてくるような気がして、思わず笑いだした。