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俺たちはリゼンブールに戻って暮らしている。
何をしているかっつーと、錬金術の研究と、リゼンブール限定の何でも屋。
後者のは気がつけばいつの間にかそうなってたっつー感じだけどな。
修復が困難なものを直すのが主な依頼。
錬金術みたさに持ってこられたのを直したことからいつの間にか気がつけばリゼンブール中に噂が広まってた。

 

バチバチッ、と錬成光が瞬いて、すぐに収まる。
牛乳屋の親父がぶち抜いたという屋根の穴が完全にふさがったのを確認してから、俺は立ち上がった。
軽く足で強度を確かめる。
うん。完璧完璧。

 

「これでよしっと。」
「いつも悪いねぇ、エド。」
「なぁに。これくらいちょろいちょろい。」

 

下で見守っていたおかみさんにピースをしてみせる。

ちなみに親父さんは腰をしたたかに打って当分の間は動けそうにないらしい。

「足を滑らせたりしないでよ、兄さん?」
「へいへい。」

 

ついでに傷んでるとこがないか、ざっと見渡してると、家の中から黄色が飛び出しておかみさんの隣に立っていたアルフォンスに飛びついた。

 

「アルー!まだお外にいるの?つまんないよー」
「ハナ!アルは遊びにきたんじゃないんだよっ。」
「だって屋根はエドが直すんでしょ?じゃあアルは私と遊ぼうよー。」

 

生意気なハナはアルの腕にしがみついて家の中に引っ張り込もうとしている。

 

「どうだろう…もう修理終わったみたいだしね…」
「えー!帰っちゃうのー?遊ぼうよー。なんならうちに泊まっていってもいいよっ。」
「こーらっ、ハナ!何うちの弟を誘惑してんだ。」

 

屋根の上から呼びかけると、ハナが眼をきらきらさせて見上げてきた。

 

「エドー、ハナにアルちょうだい?」
「だーめ。アルはものじゃねーの。」

 

ひらひらと手をふるとお願いポーズは一転。ケチ!と甲高い声が飛んできた。

 

「ケチじゃないっ。」
「ちょうだいよう。」
「だ・め。」
「じゃあアルがいいよって云ったらいいの?」
「だめ!アルは俺の!」
「兄さん…」

 

屋根から飛び降りてハナの前に着地すると、毛を逆立てた猫のように威嚇された。

 

「エドのケチ!ケチケチ、チビ!」
「こぉるぁあ…てめ、今関係ないのが一個混じってなかったかぁ…あん?」
「関係なくないもん!エドちびだもん!」
「は~な~ぁあ…?」
「兄さん!女の子と張り合わないの。」

 

アルに制されたから鉄槌を食らわすのは我慢したものの、こうケンカをたたき売りされると買いたくなるのがサガってもんだろ?
じりじりとハナとにらみ合いを続けていると、それまで成り行きを見守っていたアルがため息をついてから俺の腕をとって身をかがめた。

 

「ん?……ッ!」

 

たぶん、ここはなんとかするから先に帰ってろとか、そんな言葉だったと思う。


だけどそれよりも


思いのほか強く引かれた腕とか、
耳の中に直接吹き込まれた声の低さだとか、

音と一緒に耳を撫でた息に、

心臓が跳ね上がった。


何を云われたか理解する余裕は、これぽっちもなかった。

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