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ぬくい。

柔らかい。

いつまでもこうしてたい。


『…いつになったら眼を覚ますの?』


ずっと覚まさない。


『仕方ないなぁ…』


アルの苦笑が聞こえる。
気持ちいい。


…けど少し眩しい。

 

 

 

「う…ーっ?」

 

眼を開ける。
眩しくて眼が痛い。

 

「??」

 

一度閉じてからもう一度眼を開ける。
天井が見えた。
室内だ。

…なんでだ?

起き上がろうとして、腹が重たいのに気づいた。
首だけを動かして見て悲鳴をあげかけた。

 

「いっ…!?ア、ル…」
「んー…?」

 

俺の腹に頭を乗せて眠っていたアルは、眠そうに眉間に皺を寄せる。
起きるのかと思えばまたそのまま寝てしまった。

じ…状況がわからない…。

仕方なく頭を枕に戻すと、周りを見てみた。

 

窓の外が明るい。
夜が明けたらしい。

確か、頭を整理しようと思って、外に出て、
アルに追いつかれて、つい逃げて、

 

…どうなったんだっけ?

 

「あれ、記憶がねぇぞ…?」

 

思わず呟くとアルがまた身じろぎした。

 

「ぅ、ん…」

 

椅子に座って俺の腹に頭を乗せたアルは余程疲れてるのかなかなか起きなかった。
もしかしたら俺が眼を覚ますのを待ってたのかもしれない。

ゆっくりと身体を後ろに滑らせて座ると、アルの頭を太ももに移動させる。

 

眠ってるアルを見るのは久しぶりだった。

鎧の中にいた時はアルは眠らなかったし、
錬成したばっかの頃は心配がつきなくてつきっきりだった。

思わず手を伸ばしてアルの頭を撫でる。
ざらざらと短い髪が手のひらの下で流れる。

身体を取り戻した時は俺よりも小さかったくせに、あっという間に俺の身長を越すもんだから近頃は簡単には届かなくなった。

 

「撫でにくくなりやがって…」

 

眠り続けるアルの顔を見ながら、俺はゆっくりと頭の中を整理していった。

 

「あっという間にでかくなって…あと何年かしたら、お前も色んな人と出会う。

 可愛い彼女もできて、そしたら、いつか別々に暮らすことにもなるよな。
 お前にはお前の人生がちゃんとあって、ようやくこれから本番だよ、な?

 それを邪魔しちゃあ兄貴失格だよ、な。」


いつまでも一緒にいれればいいと思った。
家族故の漠然とした願望だ、って思ってたけど。
どうやら俺はお前を一人占めしたいらしい。


ごめんな、アル。
危うくまたお前を縛っちまうとこだった。


眼を覚ましたらアルに云おう。
そろそろ離れて暮らそうかって。


あと何年かしたら…そうなるんだ。ちょっとくらい早まったって何も変わらない、だろ?
 

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