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最悪だ最悪だ最悪だ!!

もう何をどうすれば云い繕えるのかわからない。

っていうかもう一度口をきいてもらえるのかもわからない。


俺は青ざめながら一人で部屋の中をうろうろしていた。
横のベッドは元の形をしておらず木の部分は平たい手の形を作ってぐぅんとドアまで伸びてる。

咄嗟のこととは云え、思わずベッドを使ってアルを部屋の外へ突き飛ばしてしまった。
判断のつかないままドアを閉じて鍵をかける。

一通りうろうろしてから俺は自分のしたことに気づいて床にへたりこんでしまった。
頭を抱える元気もない。

 

どこで間違ってこんなふうになった…?
キレイに別々の生活ができるようにするんじゃなかったのか、俺!
何うっかり自分の気持ち告白してるんだよお、えぇ!?
おまけにアルを問答無用で突き飛ばすってもうマジで何やってんだよ…!!

がっくりと床に手をついて悶絶する。

 

「憤死しそうだ…今ならできる…」

「死なれると困るんだけど…」
「!!」

 

聞こえてきた言葉にガバッと床から起き上がる。
ドアを見ても開いた形跡はない。

声のした方を振り向くと、アルが窓から部屋に入ってくるところだった。

 

「よいしょ…」
「…て…お前…ココ2階…」
「誰の弟だと思ってるの?」

 

そういいながら俺の知らない笑顔を浮かべる。

 

「ドア壊したら驚くだろうと思って。
 これ以上怖がらせたら、今度こそ遠くに逃げていっちゃうでしょう?」

 

首をかしげるアル。
なんだ?何が起こってる?

 

「な、に…考えて、る?」
「兄さんのことだよ。」

 

真っ直ぐな金色の眼が俺を捕まえる。
俺の前にくると、アルは俺と目線を合わせるために膝をついた。

 

「ねぇ、兄さん。聞かせて。
 僕を意識したって、どういうふうに意識したの?」

 

聞かれてることの意味が理解できなかった。
ぎこちなく首を横に振ると、アルフォンスは傷ついた顔をした。

 

「お願い。」
「い、えない…」
「聞きたいんだ。」

 

聞きたい?何故?

顔に言葉があぶりだされるのか、アルは「決まってるだろう」と答えた。

 

「僕も、兄さんを意識する時があるから。」

 

 

……え?

 

 

「兄さんが好きだって、思う時があるから。」

 

云われてる言葉が、理解する前にするりと抜けて行く気がした。

 

「だから、確認させて?
 兄さんの好きと、僕の好きは、同じなのかな?

 …それとも、違う、のかな…?」

 

ぎゅっとアルが唇をかんだのをみて、俺は咄嗟に答えた。

 

「ひ、きょう、だぞ…っ。」
「…どうして?」
「だって!俺が、身を引こうと、」
「だから、どうして?」

 

云い返せなくて口をぱくぱくさせていると、アルはまた俺の知らない顔でくすりと笑って、ゆっくりと俺の頭を自分の胸に押し付けるように抱きしめた。
それから囁くような低い声で、どうして、と繰り返した。

 

「どうして、そんなこと、するの?」
「どうしてって…」
「僕は兄さんのこと好きだよ。兄さんの気持ちは、確認させてくれないの?」
「~っ」

 

有無を云わせない態度の癖にそんなことを云う弟に腹が立ってくる。
俺は顔を見られないようにアルのシャツに頭を押し付けると短く息を吸い込んだ。

 

「…ッ、ほんとに、後悔しねぇだろうなっ!?」
「しない。」
「ほんとに俺のことが好きだっていうんだな!?」
「好きだよ。」

 

息が、乱れる。
短く、何度も吸ってから言葉を絞り出す。

短い間にいろんな言葉が交差する。

 

卑怯、だなんてヒトのこと云えねぇな。
アルに云わせてばっか、

卑怯だ俺、確認ばっかり、
けど、こうしなきゃ云えない、
あぁ、くそ、言葉が出てこねぇ。


「……お、れと…どうこうなりたいって思う位好きか…?」

 

ぎくり、
アルの腕が強張る。
それから、アルが慎重に深呼吸するのが聞こえた。

 

「…好きだよ。」
「!…う、嘘だったら、許さないからなっ…!俺は、そう思う位お前が、好きなんだからなっ!」

 

顔をあげて、脅すつもりでアルを睨むと、両頬を手で包まれた。

 

「好きだよ。兄さんを抱きたい位、好きだよ。」

 

俺よりも直接的な言葉に眼がくらむ。
そのすきに、アルは俺の唇に自分の唇をくっつけた。

 

「う、んっ…!」

 

暴れようにもがっちりと身体を捕まえられて動けない。
兄の威厳とか価値観ががらがらと音を立てて崩れていくのに、俺は段々頭がぼやけてきて、それどことじゃなかった。

唇が離れて、金色に見つめられる。

 

「兄さんが欲しいよ。」
「…お、れが、」
「うん。」
「……。」

 

そう、か。

そっか。

そんなら、いいや。

そう思ってアルの首に腕を回す。

相変わらずいろんな言葉が頭ん中で飛び交っててごちゃごちゃになってたにも関わらず、その時だけは安心感すら覚えた。

お前がいいなら、なんだっていいんだ、俺は。

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